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ワイン女子物語~29歳、地味女サキの場合⑦~

山梨のぶどう畑で出会った醸造家の女性マミは、サキが今まで会ったことのないタイプで…

2016.12.07  Written by ゆれこ

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ー前回まであらすじ

無い無いづくしのアラサーOLサキは仕事を辞め、親戚のおじさんが経営する乃木坂のワインショップで働き始めた。(サキの紹介、第一話はコチラ

おじさんの勧めでやってきた山梨県勝沼のワイナリー。甲州やマスカットベリーAの畑を見学中に出会った女醸造家のマミに興味を惹かれ、併設のレストランでランチを食べることになった。

マミさんがワイン作りを仕事にした訳とは…

汗ばんだ身体を冷やすように、ぐびぐびと白ワインを飲んでいると、料理が運ばれてきた。

綺麗な彩りで盛り付けされたオードブルは、ホタテとサーモンをベースにした野菜のマリネ。

「おいしい!地元にこんなにおいしい料理が食べられるお店があったなんて!」

「ふふふ、こどもみたいに喜んでる(笑)ここの料理を食べに全国から色々な方が来る事もあるのよ。」

私が山梨で暮らしたのは、高校生まで。その時は東京には何でもあって、地元には何もないと思っていた。私は正しくこどもであり、大人のための町の顔は知らなかった。

しかし、山梨にずっといたからといってこのお店に出会えたとは思えない。

慣れない東京で働き、少なくとも自分の稼いだお金で好きなものを食べ、好きなものを買えるようになって初めて、今まで見えなかったものが現れるのだ。

「それで、サキさんは私の何が聞きたいのでしたっけ?」

「マミさんは、いつからこのお仕事に?」

「高校生の時に、たまたま海外のワイン産地に住んでいたの。父親の仕事の関係で。大学に行く気は無かったからそのまま色んなワイン畑を巡ってたの。そうしたら、これが仕事になるのかなって急に思って。」

「へえ!ワイン醸造家になりたかったんですね!」

 

 「なりたかった、そうねなりたかった訳でもないかもしれない。」

「どういうことですか?」

「サキさんはスポーツは好き?」

「へ?

オリンピックをテレビで見る位には

「それで十分!(笑)この間テレビでね、オリンピック出場選手のドキュメンタリーをやっていたんだけど。この時期良くあるじゃない?そこでね、格闘系の女性の選手が、格闘技が好きですか?と聞かれて、わかりませんってはっきり答えたの。小さい頃から周りがやっていて、嫌いではなかったから続けてみました、だって。

それを聞いて、私もその感覚に近いなと気付いたのよ。

今までは醸造家としての取材やなんかは、ワインが好きで、って答えていたんだけど。もちろん、好きなことに間違いは無いわよ。でもたまにワインマニアのお客様にお会いすると、あ、この人の方が私よりワインが好きかも、と思ったりするの。私はワインも好きだけど、テレビも見たいし、スポーツも好きなの。」

ワイン醸造家になりたかった訳ではない?そして勝手にマミさんはテレビでスポーツニュースを見るキャラでは無いと思い込んでいた。どことなく浮世離れした空気を纏っているからだ。

テレビを引き合いに出すなんて、ダブルで面食らってしまった。

マミさんは声を出して笑いだした。

「サキさん、驚きすぎて目が豆みたいになってるわよ。」

マミさんは意地悪だ。豆って苦笑

「でも、好きか分からない事を仕事にして、ここまでモチベーションが湧くものなんでしょうか?」

「好きすぎないから良いのかもしれない。好きすぎて尽くしすぎたり、影響を受けすぎたりすると、急に嫌になってしまったりするでしょ?

何かの炭酸飲料のテレビCMで、ノーリーズンなんとか〜ってやってたでしょ、正しくあれよ!何となく続くものに理由なんてさほど無いもの。」

マミさんは相当テレビが好きらしい。

夜の会合、東京や地方での仕事が無い日は家でテレビを見るのが一番だと話していた。

山梨の赤ワインをいただき初めて味の表現をしてみることに。

「サキさん、まだ飲める?赤ワインに切り替えましょうか!」

そう言って持ってきてくれた赤ワインは先ほど名前で味わったマスカット・ベリーA種から作ったワインだった。

「ワインショップの店員さんとして、ちょっと味を表現してみて!」

少し酔っているのか、いたずらっぽくボトルを見せてきた。

「ええと、味の表現は一番苦手で。まだそんなに飲んでいるわけではないですし。」

「いいのよ、思ったことをとりあえず口にしてみて!」

「色は濃い赤紫がかった綺麗な色で、味はーそうですね、しっかりしているんですが、酸味のバランスが良いです。ふわっと甘みのある果実の香りがします。」

仕方なく、数少ないボキャブラリーを並べてみた。

「いいじゃない!!このローストした豚に合うと思わない?」

「そうですね、牛より豚とか鶏に合いますね。」

酸味のあるバルサミコソースのかかった豚のローストは、確かにこのワインによく合い、美味しかった。

「お客さんも年代や産地もそうだけど、結局は味やマリアージュを知りたがっていると思うから、もっと勉強しなきゃだめね。有名ソムリエのブログとかも言葉の使い方が参考になるけれど、自分自身でたくさん飲んで、色・味・香り、そして時間と共に変化を書くようにすると良いわね。(ワインの味の表現のし・か・た)」

「それから、ワインは飲むグラスも大事。グラスが違うだけでワインの色の見方が変わってくるし、空気の触れ口が違うから味も変わってくるから。(ワインがもっと美味しくなる グラス選びの初級編)」

確かに、家で飲む時もきちんとしたグラスで飲むのと、面倒くさくてコップで飲んだ時は雲泥の差だった。

うちのお店は家飲み用のお客様も多い。グラスを仕入れて一緒に勧めてみても役に立つかもしれない。

「すごく参考になります。ありがとうございます!」

マミさんと出会えて気づいたことを、お店での接客に生かしたいと思い始める。

「喜んでもらえてよかった!私も今は落ち着いているけれど、海外から帰ってこの地でワイン造りを始めようとした時は、大変だったと言えるのかもしれない。なぜか海外には残らずに、日本でワインを作らなきゃ!と思ったのよね。根っからの日本好きだし。この勝沼が日本では恵まれた環境だということはあったけど、やっぱり日本でワイン造りなんてメジャーではなかったし、女という事で畑作業に受け入れてもらえなかった。それでもぶどう作り、ワイン造りを辞めなかったのは、強い意志なんかじゃなくて、他にやりたいと思うことがなかっただけなの。サキさんもきっと、なんとなくワインって面白いなと思ってくれているだろうから、お店でのお仕事も、頑張ってね。」

「たまには東京に遊びに行くから、案内してよね!例えば、、、お台場とか?田舎者かしら(笑)」

マミさんはこんなに美しくて偉業を成し遂げているにもかかわらず、気さくで可愛らしさもあり、決して驕らない強い女性に思えた。

今まで働いた会社には、こんな女性はいなかった。むしろ、こうなりたくは無いなというロールモデルの方が多いように感じた。

たかだかワインショップ店員の自分がおこがましいと思いながらも、こんな歳の取り方ができたら素敵だなと、心の底から思った。

陽が暮れかかった電車のホームで、ダイスケさんとマミさんに見送られながら電車に乗った。シャトー勝沼のワインは何本か自宅に送ってもらうことにして、気に入った菱山ベーリーA1本と、このワイン用に買ったグラス、そして大量に撮った写真をスマホに写しながら、東京に戻ってからお店に立つ事を想像して、窓に映った自分の顔が清々しく微笑んでいる事に気がついた。

この物語はフィクションであり、登場する人物は実在の人物ではありません。

この記事を書いた人Author

ゆれこ

辛口泡系とフルボディの赤のしっかりしたワインと肉料理が好み♩お勉強のために"神の雫"を読み直しています!


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