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ワイン女子物語~29歳、地味女サキの場合⑥~

地元山梨のぶどう農園に訪れたサキ。そこで見たぶどう作りや携わる人々に心が躍る。

2016.10.21  Written by ゆれこ

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ー前回まであらすじ

無い無いづくしのアラサーOLサキは仕事を辞め、親戚のおじさんが経営する乃木坂のワインショップで働き始めた。(サキの紹介、第一話はこちら

暑い夜の閉店間際、冷たく冷えた白ワインを飲みながら、おじさんがなぜワインショップを開いたのか、初めて知ったサキ。おじさんが歩んできた人生の中心にはワインがあった。ワインがここまで人の人生に関与するなんて。もっとワインについて知りたくなったサキはおじさんの勧めで山梨のワイナリー“シャトー勝沼”を訪れることになった。

前回の『夏の冷えた白ワインを飲みながら聞く、おじさんがワインショップを始めたネガティブな理由とは…』はこちら

久しぶりの地元山梨は、今のサキには少し違った景色に見える。

おじさんの一言でお休みをもらい、昨日の今日で山梨に来てしまった。普段から実家にはあまり寄りつかず、帰ったとしても年末年始で家にこもっており、外を出歩くのは久しぶりだった。

「サキさん、お久しぶりです。」

「あ、よろしくお願いします。」

おじさんの息子、つまり私のいとこにあたるダイスケさんが勝沼ぶどう郷駅まで迎えに来てくれていた。歩いて行けなくもない距離だが、涼しい山梨と言え快晴の今日、外を歩かなくて良いのは助かった。

「まさかサキさんが父の店で働いているなんで知らなかったですよ。」

「私も自分でも驚いています。」

いとこと言ってもその記憶は小学校を上がるまでで、歳も離れていたし引っ込み思案だった私はダイスケさんと遊んだ記憶が薄い。どことなくおじさんと似て穏やかな空気が流れる彼は、気を使ってくれているのか、車中も特に私についてそれ以上の突っ込んだ質問はせず、天気の話などをしてくれている。

「まずは畑に出てみましょうか。」

バッグを車に置き、帽子とタオル、そしてスマホを握りしめて畑に降り立った。

ITの仕事をしながらも普段はSNSの類は一切やらないし、むしろレストランや道端などかまわずカシャカシャ写真を撮る音が不快でもあるくらいだった。

でも今回だけはたくさん写真を撮って帰ろうと決めていた。休みをくれた叔父さんにも見せたいし、品種を覚えるのにも使いたい。お客さんに接する時も使えるかもしれないし、そしてユウトにも。。。

「ここは甲州の畑です。」

張り巡らされた針金の天井(棚と言うらしい)から重そうに実ったぶどうがびっしりとぶら下がっている。水分と栄養分をたっぷりと含んだ実はぷっくりと膨らんでいて立派だ。すかさずカメラを向ける。

「あ、撮って良いですか?」

「もちろん、ご自由に撮影してください。撮った写真は是非拡散してくださいね。」

天井から射す太陽光を浴びてぶどうが輝いている。我ながら上手い写真が撮れたと思う。カシャカシャとぶどうにカメラを向けている私の邪魔にならないように、ダイスケさんはゆっくりと説明をしてくれた。

「甲州は日本の在来種です。元々山梨では800年ほど前からワインの栽培が行われていたそうです。昼夜の寒暖差が激しく、水はけの良い土地が適していたこともありますが、歴史的側面もあります。日本初のワイン醸造は明治時代にフランスからワインの技術を持ち帰った若者が山梨でぶどう作りを始めたことからこの地でのワイン造りが定着しています。 ※日本も負けていない! 国産ワインを味わおう!

日本ワインはあまり飲んだことがなかったが、ここ数十年のことかと思っていた。明治から続いているなんて驚きだった。

「ダイスケさん、とっても説明が上手ですね。」

「ありがとうございます(笑)畑やワイナリーのガイドのお仕事もしているので。」

スマホをしまって今度は持参したメモを取り出し、今聞いたことを殴り書きする。こんなに勉強熱心になったのは、新入社員の時以来だろうか。ペンを持って字を書くことすら久しぶりで新鮮だ。

「甲州の収穫はもう少し後ですね。熟してから白ワインにします。赤ワインになる品種の畑に行ってみましょうか。」

女醸造家として働くマミさんとの出会い。彼女の存在や生い立ちが気にならずにはいられないサキ。

民家と民家の隙間の急勾配な傾斜を様々な品種のぶどう畑がひしめいている。少し歩くと“マスカットベリーA”という看板が見えてきた。

「マミさん!」

ダイスケさんがそう叫ぶ先には、失礼ながら畑と農作業服には似つかわしくない美女が立っていた。

「彼女は女醸造家としてこの辺りではちょっとした有名人なんです。」

最近何かのニュースサイトで日本のスパークリングワインが国際的な賞を受賞したという記事を思い出す。

畑では何人かのスタッフが丁寧に一つ一つぶどうを収穫していた。

「サキさん、わざわざ足を運んでくださって嬉しいです。ここはマスカットベリーAの畑です。甲州についで日本で生まれたワイン用ぶどう品種として認められた品種です。赤ワイン用の収穫はもう少し先ですが、このぶどうは生食用としても販売しているので、出荷用に収穫しています。食べてみます?」

房ごと差し出されたぶどうを一つもぎり、皮も種も気にせず口に運んだ。

「ふふ、大胆な食べ方ね。」

そう笑われてしまって少し恥ずかしい。

皮が厚くさすがに口から出したが、実はとても甘く果汁が多い。甘みもただ甘いだけでなくきちんと酸味が効いている。このぶどうがどんなワインになるのだろうか。

そんな私の疑問を見透かしたかのように、

「ワインの味はぶどうの品種もそうだけど、気候や土壌、ぶどうの配合や醸造方法によってもだいぶ変わってしまうの。とっても難しいのよ。」

そうおっとりと話すマミさんは優しい女性らしい雰囲気に包まれながらも芯の強さが溢れている女性だった。

年は私と変わらないくらいだろうか。うっすらと施された化粧でも十分なくらい綺麗な顔立ちだ。

「マミさんはどうしてワインを作ろうと思ったんですか?!」

ワインやぶどうとは関係の無い質問だとは分かっていながらも、聞かずにはいられなかった。

声を荒げた私に対してマミさんは目をまん丸くして驚いていたが、

「せっかくだから、うちで作っているワインでも飲みながら話しましょうか、女どうしでね♪」と言って併設されているレストラン“鳥居平”へ連れて行ってくれた。

「これは“鳥居平今村”の白ワインよ。ここの第3代当主がテロワールとミネラルにこだわって作ったのがこのワインなの。」

グラスに注がれたグリーンがかったイエローのきらめく液体を、グイッと口に含んだ。

辛口でキュッとした酸味が効いている。口の中の温度に反応し、果実やミネラルの複雑な香りが立ち込めてくる。今さっき見てきたぶどう畑を思い浮かべながら、もう一口ワインを流し込んだ。

続く。

※この物語はフィクションであり、登場する人物は実在の人物ではありません。

この記事を書いた人Author

ゆれこ

辛口泡系とフルボディの赤のしっかりしたワインと肉料理が好み♩お勉強のために"神の雫"を読み直しています!


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