Article記事

ワイン女子物語~29歳、地味女サキの場合③~

恋愛トークが苦手なサキは同性の友達が少ない?ホームパーティ用のシャンパンを探しに来たキラキラ女子。

2016.07.22  Written by ゆれこ

  • Clip to Evernote

ー前回まであらすじ
無い無いづくしのアラサーOLサキは仕事を辞め、親戚のおじさんが経営する乃木坂のワインショップで働き始めた。(サキの紹介、第一話はコチラ
偶然お店で見かけたのは、高校時代の私にとって特別な存在だったユウト。まさかこんな場所で再開するなんて…。ユウトだけではなく、様々な人が、様々な理由でワインを求めに来るのだったー

前回の『サキの物語②~既婚かどうか、幸せかどうかは見た目で判断できない~』はこちら

昔から苦手なタイプのキラキラ女子来店。サキはきちんと接客できるか…?

「すみませーーん、シャンパンってこのあたりにあるので全種類ですかぁ?」
突然耳に入ってきた語尾の長い甘ったるい声の持ち主は、きれいに髪を巻きおろし、今年流行りのデザインで実はさりげなくシャネルのこの夏の新作と思わしきバッグを持った若い女だった。彼女を見た瞬間、私は一気に身体がこわばるのを感じた。
こういう“女子力”を前面に出した女が昔から苦手だった。クラスに必ずいる、男女双方から人気のある社交的でかわいい女子。

とっさに店内を見渡すが、彼女に近い位置にいるのは自分だけだ。

しかたなく、無表情のまま声をかける

「シャンパンをお探しなんですか?」

「そうなの、新しいマンションに引っ越してー、友達を呼んでホームパーティーをするの!!だからちょっと良い泡で乾杯したいじゃない?」

ああ、いきなりタメ口になる女も苦手なんだった。

「そうですね、お料理は何をお考えですか?」

「友達がお料理上手でね、その子が作って持ってきてくれるの!あ、その子が最近彼氏に振られちゃってね、今回のパーティーはその子の慰め会もかねてるっていうか。せっかく彼のためにお料理教室通ってたのにねー。お姉さんは彼氏いる?手料理とか作るタイプ?」

私の恋愛事情は関係ないだろう。で、結局料理はなんなんだ。と心の中で舌打ちをする。

「あっごめんなさい、お料理はね、メインがチキンのローストで、あとはカルパッチョと、パエリアも作ってくれて。あとは桃を使ったサラダって言ってたかな!桃とかおしゃれでしょ??」

「それでしたら辛口のシャンパンが良いですね。ご予算はどのくらいでしょうか?」

「んー2万位かなぁ。まあ、パパに出してもらうからいくらでもいいんだけどねっ♪」

随分高級な女子会だこと。そう思ったことが顔に出てしまっていたのか、彼女はすかさずぺろっと舌をだして見せた。

サキのオススメは、シャンパンの帝王と呼ばれる○○…?

こちらが聞いてもいないのに新しいマンションの話や友人の彼氏の事を話し続けるので、ゆるーく相槌をうちながらシャンパンを考える。

「それでしたら、シャンパンの中でも最高峰と言われるクリュッグ、グラン・キュベはいかがでしょうか?
このシャンパン製造に人生をかけてきた職人の味は、他のものとは一線を画した特別感がありますよ。」

生意気ながら、私はクリュッグのシャンパンが好きだ。このシャンパンを飲むと、「今、歴史と格のある最高のシャンパンを飲んでいる」という雄大で荘厳な気持ちに浸ることが出来る。玄人っぽく味をどうこう語ることはできないので、その存在自体に触れることが自分を引き上げてくれるような、いってみればブランド品なのだが。しかし、世界各地に「クリュギスト」と呼ばれる愛好家がいるのもうなずける、魔法の様な力のあるシャンパンであることは確かなのだ。

「素敵なシャンパン!それにしようかな!」

どうやら気に入ってもらえたようだ。しかし、クリュッグを飲める女子会なんて、ちょっと羨ましい。

「あ、でもこっちのピンクのボトル可愛い~!これもシャンパン?どうしようどっちが良いかなー。決められなーい。」

今決まったばかりなのに…もう目移りしている。思わずため息が出そうになる。

女の子のショッピングはとにかく長い。そして優柔不断との戦いだ。どっちが良いかと意見を求めておきながら、大抵心の中で既に答えは出ているパターンが多い。
付き合う事も以前はあったが、最近は会社の帰り道に立ち寄るかネットでしか買い物をしていない。

乃木坂に向かう地下鉄の中で、何気なく読んだラインNEWSのコラムに書いてあった『同性の友達が少ない人の特徴4つ』。

“恋愛話を好まない”
“ショッピングに付き合うのが苦手”
“意見が強すぎる”。

仕事に命をかけているという特徴以外、そのまま私だ、と今朝苦笑したばかりなことを思い出した。
「もしロゼがお気に入りでしたら、クリュッグのロゼは少々お値段がはりますので、このヴーヴクリコ・ローズラベルをウェルカムシャンパンに、お料理と一緒にクリュッグをふるまうのはいかがでしょうか?」

「それ、良いアイデアね!」

 

「ヴーヴクリコはご存知かもしれませんが人気がありますよ。エチケットも可愛いですし、女子会にはぴったりだと思います。」

「ねえ、なんでロゼってピンクなの?」

「ロゼは製法によってきれいな色を出しているんですよ。その製法も実は色々あるんです。赤ワインの醸造と同じように黒ブドウの皮も果肉も一緒に付け込んで、独特の淡いバラ色になったとこで果汁だけを取り出し、白ワインと同じく発酵させる方法。

2つめは、ブドウを皮ごとつぶして、白ワインのようにピンク色の果汁だけを取り出して発酵させる方法。黒ブドウと白ブドウを混ぜて発酵させたり、赤ワインと白ワインをミックスさせたりする方法もあります。」
「薄い皮のぶどうを使っているのかと思ったわ。さすがワインショップの店員さん!じゃあこの2本で決まりね!」

「ありがとうございます。」

ふぅ。

ようやく彼女の“シャンパン・ショッピング”も落ち着いたようだ。
また思ったことが顔に出ないように、レジに商品を持って行く途中のガラスケースに移った自分の顔をチラ見する。

リア充キラキラ女子が苦手なのは、自分と無意識に比べていたからかも…。

ボトルをラッピングしている間、彼女は突然声のトーンを落としてしゃべり始めた。

「わたしね、こう見えて実は32なの。未だに実家暮らしで箱入りで育ったから自分では何もできないの。あなたみたいにしっかり働きに出てもいなくてね。笑っちゃうでしょ。
結婚でもすればいいんだろうけど、父が厳しかったせいか、あまり男性と暮らしたいと思えないの。今日集まる女友達は結婚している人もいれば、独身もいるし、いろんなタイプがいるけど、女同士でおいしいご飯とお酒をお腹いっぱい食べて、くだらない話で思いっきり笑うのが最高に楽しいの。」

そう一気に話たかと思うと、あ!と何か思い出したような顔で店内を小走りし、ハーフボトルのシャンパンを抱えて戻ってきた。

「こちらもご自宅用で大丈夫ですか?」
「ううん、あなたにお礼。一緒に素敵なシャンパンを選んでくれたおかげで、今日は楽しいパーティになりそう!」

ハッとした。

そうだ、私は昔からこういうタイプを心底嫌いになれない、いや、むしろ好きだった。育ちが良いためか、素直で人を疑う事をせず、人なつっこく無邪気で、直ぐに人の懐に入れるような子。
苦手といって避けながら、心の中では憧れているのだ。そんなキラキラしているように見える女子にも、自分や他の人と同じように悩みや弱さがあるということが、私には見えなくなっていた。

いつも見た目で人の事を決め込んでしまう自分の未熟さに恥ずかしくる。

「ありがとう、また来るね♪」

(今日の女子会がとびきりに楽しくなるといいな。)

彼女への申し訳ない気持ちと、素直に幸せになってほしいという気持ちが交錯する。
笑顔で店を出ていく彼女の背中を、いつものお客様よりも長く、見送った。

—————-

「そろそろ閉めようか。」

時計の長針と短針が12の文字の上でぴったりと重なりそうだ。
ワインショップにしては遅めの営業時間だが、場所柄この時間の駆け込み客も多い。

——今日も、ユウトは来なかった。

ばったり会うなんていう偶然が何度も起こるはずもないのだが、期待している自分が情けない。
もし次にユウトが来たら、自分はどんな反応をすればいいのだろう。こんな時、女友達にどう相談すればよいのか、私にはわからない。本当は恋愛話が嫌いなわけではない。ただ、切ない気持を打ち明ける勇気が足りないというだけなのかもしれない。

昼間の彼女からの突然のプレゼント、このピンクの可愛い泡を飲みながら、今日は久しぶりに女友達に電話でもしてみようか。

深夜に起きていそうな友達の顔を思い浮かべながら、私はエプロンを脱いだ。

 

次回の公開は未定です。

この記事を書いた人Author

ゆれこ

辛口泡系とフルボディの赤のしっかりしたワインと肉料理が好み♩お勉強のために"神の雫"を読み直しています!


この記事を共有♡

  • Clip to Evernote